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【小山田圭吾】雑誌クイック・ジャパンといじめ告白記事を読んできた【太田出版】

7/26追記:

・一部記述を追加、修正、削除しました。北尾修一氏の指摘する通り、『村上清のいじめ紀行 第3回』および『村上清のいじめ紀行 第4回』の内容について知ることは「いじめ紀行」に関して正確な評価をくだす上で意義があると考えるので、これに関する記述を強化しました。

・読者様から「いじめ紀行」が全5回だったのではないかとの指摘があり、指摘が正しいと判断したので訂正しました。ありがとうございます。(指摘前は全4回だと誤認していました)

 

こんにちは。今回は東京オリンピック開会式の作曲担当者を辞任した小山田圭吾氏が行ったいじめを告白した記事『村上清のいじめ紀行 第1回』が掲載された雑誌『クイック・ジャパン 3号』などを図書館で読んできたので、その内容を記事にしました。連載記事『村上清のいじめ紀行』の第2回以降の内容や、雑誌内の他の記事の様子などにも目を通し、紹介していきます。当記事は小山田圭吾氏本人よりもむしろ、当時の『クイック・ジャパン』誌について精度の高い評価を下すことを主な目的としています。
普段の当ブログの記事とは傾向が違いますが、社会的意義や時事性、読者の関心の高さなどを鑑みて記事にしました。この記事を通じて読者の皆様と知識を共有できれば幸いです。

 

クイック・ジャパン 3号と例の記事について

小山田圭吾氏は2つの雑誌の記事でいじめについて告白しています。一つは『ロッキング・オン・ジャパン94年1月号』に掲載されたインタビュー記事で、もう一つは1995年8月に発行された『クイック・ジャパン 3号』の『村上清のいじめ紀行 第1回』という記事です。後者を執筆した村上清は当該記事内で、いじめに関する記事を書くにあたって、「昔読んだ『ロッキング・オン・ジャパン』の小山田圭吾インタビューを思い出した」ので彼を取材することにしたと書いています。つまり二匹目のドジョウを狙った格好なわけですが、それにしても村上清や『クイック・ジャパン』誌編集担当者の露悪性が際立った記事でした。記事というか雑誌でした。なぜなら表紙をめくると

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目次と小山田氏の顔。

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『いじめ紀行』は「強力企画」としてプッシュされている

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そして、その次のページはというと……

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障害児をロボコンのキャラに喩えている差別意識丸出しの小山田圭吾の写真が! 編集部は『いじめ紀行』を猛プッシュしています。当時のクイック・ジャパンの編集部はこの記事を雑誌の顔として扱っていますし、その結果起こった事に対しても責任があるはずです。

 

村上清氏は

僕自身は学生時代は傍観者で、人がいじめられるのを笑って見ていた。短期間だがいじめられたことはあるから、いじめられっ子に感情移入する事は出来る。でも、いじめスプラッターには、イージーヒューマニズムをぶっ飛ばすポジティヴさを感じる。小学校の時にコンパスの尖った方で背中を刺されたのも、今となってはいいエンターテイメントだ。「ディティール賞」って感じだ。どうせいじめはなくならないんだし。

(いじめの詳細な)「話を聞くと、”いじめってエンターテイメント!?”とか思ってドキドキする」

などと書き、「エンターテイメント」としてこの連載を行っています。

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各ページに注釈と胸糞悪い挿絵がついていました。

いじめ紀行 第2~5回の内容

『クイック・ジャパン 4号』に掲載された『いじめ紀行』の第2回では、竹熊健太郎氏が「いじめられっ子」としてインタビューに答えています。この人は『クイック・ジャパン 3号』内で別のロングインタビュー記事に出るなど当時は誌内で活動しており、今は無料Web漫画雑誌「電脳マヴォ」の編集長をしています。
いじめられていた竹熊氏が、加害者が怪談を苦手としている事に目をつけて、呪いの手紙のようなものを用いて加害者に反撃しようとして失敗したエピソードや、共産主義者のオタクの友達を作って自分の居場所ができて「いじめを克服」していく様子などが語られています。

第3回では、「テクノDJはヒップホップDJにいじめられてるんじゃないか?」という仮説をもとに、ジェフ・ミルズというデトロイト・テクノの黒人DJが来日すると聞いた村上清氏が

黒人がテクノやるって凄くないですか。だって黒人ってたとえドラムマシン使ったとしても、肉体的なヒップホップ/ラップ方向に行くもんでしょ、普通。先輩にリスペクトとかして、コミュニティって感じで。テクノやる黒人ってそういうのに背を向けた奴じゃないかな。黒人ってアメリカのマイノリティなんだろうけど、その中の更にマイノリティっていうか。絶望してあんな音楽(テクノ)やってるとしたら似合い過ぎですよ

という人種的ステレオタイプに基づいた誤った(少なくとも記事内でのジェフ・ミルズの言動から判断する限り誤っていた)持論を編集長に披露したことから、「ジェフ・ミルズなんだけどさ、あれ次のいじめ紀行でやんない?」と言われ、ジェフ・ミルズ氏を取材することにしたそうです。

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写真下部に「間近で見たジェフ・ミルズの目は、宇宙人のようだった」

とのキャプションがある

村上清氏がいじめについて質問してもミルズ氏は「僕自身は、(中略)いじめられたことはなかったよ」と言い、一般論的な回答に終始します。

--今日は音楽についてではなく、いじめについて話を聞きたいんですけど。日本ではいじめっていうのが今凄く問題になってるんです。

「いじめ? ああ、いじめね。いじめのような単なるプレッシャーに屈するべきではないと思う。もちろん人それぞれ性格があって当然いじめっ子もいるだろうけど。僕自身は、子供の頃は体が大きい方でケンカする方でもなかったけど、いじめられたことはなかったよ」

(中略)

--日本では”葬式ごっこ”とか、陰湿なんです。で、例えばレコード屋のテクノコーナーでいじめられっ子っぽい人をよく見かけるんです。

「テクノでもいろんなタイプがある。ハードコア、メタルといった暴力的なタイプのテクノもあれば、トランスなど受動的なタイプもある。僕自身は音楽を社会問題と結び付けて考えたことはない」

--社会問題っていうか、テクノは凄いマイノリティの音楽じゃないかと思って。それでいじめと繋がってくるんです。黒人のDJっていうとヒップホップ/ラップがメジャーだという印象があるんですけど、あなたはそうじゃないDJだと思うんです。

「実際のところ、テクノミュージックは、主に黒人によって作り出され形式化された音楽なんだ。(中略)肌の色が白だろうが黒だろうが関係ない。単に好みの問題だ」

どうやら、何がテクノかって時点でもう取材者と被取材者の間にズレが生じているようだ。別に何がテクノでもいいんだけど、ただ、脳にクる音と足の裏にクる音とは明らかに違う。

 こんな風に取材対象やテクノミュージックに対する敬意を欠いたやり取りの後、デトロイトの劣悪な治安事情や自身が学校外で暴行された話なども少しだけするのですが、「いじめってエンターテイメント」だと思っている村上清氏や読者にとっては「エンターテイメント」として満足できるような質や量の発言ではなかったでしょう。
もしジェフ・ミルズ氏が本人の主張する通りいじめられた経験がほとんどなかったのだとしたら経験していないことは語りようがないし、逆に凄惨ないじめを経験していたのだとしたらその経験をこんな失礼な記者に対して語りたいとは思わないはずなので、どちらにしてもこの企画が成功する余地は極めて小さかったはずです。

 

第4回は中国の専門学校で学生の一人が旧友のいじめに報復するために教室内で爆弾を抱えて自爆し、本人を含めて3人が死亡した事件をテーマにしているのですが、前3回と比べて本当にしょぼい記事でした。なにしろ3ページしかなく、しかも紙面の半分以上が事件を報じるニュース記事の引用で占められているのです。一応中国に留学経験のある人」と「もといじめっ子だという女子高生」に簡単に話を聞いたりしているらしいのですが、筆者が中国の学校の事情に詳しいわけではもちろんないので、極めて内容の薄い記事でした。

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その後、第5回が『クイック・ジャパン第8号』に掲載されたそうなのですが、私の利用した東京都立多摩図書館に置いてなかったので内容を確認できませんでした。内容に関する情報を提供してくれる方がいたら助かります。

編集部が倫理的にまずいと思ったのか、それとも「エンターテイメント」として出来が悪いと判断したのか、両方なのかはわかりませんが、「いじめ紀行」は第5回を最後に、尻すぼみな形で終わります。

これは私の推測ですが、「いじめ紀行」を連載するにあたってクイック・ジャパン編集部と村上清氏は邪悪だが大勢の読者が見込める第1回(小山田氏との対談)を掲載した後、中立的な立場を自称するための言い訳として第2回(竹熊健太郎氏との対談)を掲載する予定でした。そしてその後の事は何も考えていませんでした。何も考えていなかったので、ネームバリューがあって日本の国内問題に関心を持っていない適当な有色人種の外国人と適当な対談をした(第3回)後、いよいよ本当に書くものがなくなって3ページのコタツ記事(第4回)と第5回の記事を出した後、本当の本当に書くものがなくなったので連載を終了したのだと思います。

他の記事について

クイック・ジャパン3号~6号の他の記事にも目を通したのでどんな記事があったのか紹介していきます。

サブカル誌だったクイック・ジャパンには過激な内容の記事もいくつかあり、わかりやすく目立ったのは『路上全裸事件顛末記』という記事でした。筆者である芳澤ルミ子という女性が新宿の路上で全裸撮影をした後、住所を警察に特定されて自宅で任意同行を求められ、『フォーカス』なる雑誌の関係者が助け舟を出してくれると思ったものの助けてくれなかった、という話をしています。巻頭の胸糞悪い「ロボコン」の写真の4ページ後には、新宿のアルタ前や紀伊國屋書店前などを背景にして全裸になっている男女の写真が載っていました。

アングラっぽいものとしては、オウムファンの女性やマジックマッシュルームなどに関する記事もありました。

ただ、全ての記事が露悪的で過激だったわけではなく、例えば永井豪のインタビュー記事で永井は、暴力的な漫画を描いてはいるけれど戦争が起こって欲しくない、暴力やグロシーンにカタルシスを感じているわけではないなどの趣旨の発言を行い、地下鉄サリン事件を批判しています。

小山田圭吾は『いじめ紀行』以外の記事にも出ており、名古屋にある店主が客に説教をするかなり変わったレコード屋を取材したりしていました。

 

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